君臨・・・と書いてしまったが、店をやっているのは人情味あふれる御年70歳のマスター「えびちゃん」こと海老名昭夫さんと、スキンヘッドで強面(こわもて)だが、実は超優しくて面倒見の良い息子さん。
福岡の地下鉄中洲川端駅近くにある冷泉公園。ちょうどその角っこあたりに数件並ぶ屋台のひとつがこの屋台BARえびちゃんだ。マスターが故郷の鹿児島を離れて福岡に就職し、長年バーで勤務した後、40代にして屋台を立ち上げた。それも隣の屋台を切り盛りするおばさんが、「えびちゃんも出すなら私も出す」と屋台経営を持ちかけ、それで始めたらしい。(マスター談)
店構えは完全に屋台。しかし中に入るとこんな感じ。客がコの字型に12人も座ればかなりギュウギュウ詰めの雰囲気だ。
ちょうど夜10時を回った頃で、平日ながら屋台もほぼ満席状態。マスターの「詰めてー」の一言で詰めてくださったカップルの方と、これをきっかけに去ってくださった3人組のお陰で席を確保できた。
マスターがバイブルのような写真入れにまとめられたメニューを差し出す。最初に目に留まったのが、「シンガポールスリング」。かれこれ5年近く住んでいるシンガポールでは接待するたびにロングバーに行って、あまり美味しいとは言えないこのカクテルを飲み続けてきた訳だが、博多味のシンガポールスリングとはどんな味だろうと思い注文してみた。
「あまいのがいい? それともさっぱりしたの?」
「さっぱりしたので」
出されたシンガポールスリングは、確かにさっぱりした味。シロップなしで作ったそう。ブランデーに漬けこんだワイルドチェリーが添えられていた。
隣に座っているカップルは宮崎から遥々来たとのこと。女性の方は粋な着物姿で。とても美人。
マスターに次のお酒を聞かれると、「じゃあ、秋っぽいカクテルで。この柿を使って!」 とカウンターのバスケットに盛られた柿を指さされた。
「はい」とおっしゃったのは息子さん。創作カクテルはもっぱら彼が作るようだ。 バスケットではなく、冷蔵庫に入った形も崩れるほどに完熟した柿を取り出し、身をスプーンで丁寧にすくって、シェイカーへ。それに搾りたてのオレンジジュースを加え・・・
屋台なのでグラスがそっけない分、中身で勝負である。「うわっ、おいしい! 飲んでみます?」と着物のお姉さまから勧められ、一口飲んでみたら、確かに「うわっ」。甘い柿が酸味のあるオレンジジュースで中和され、さっぱりとした秋味のカクテルに。
お姉さまの連れの方と私は、この屋台でも有名なカクテル「オイシー」を。「オイシーのシーはビタミンCのシーよ」とマスターの言う通り、酸味の効いた味。甘夏など酸っぱい柑橘類に食べ慣れた九州人には嬉しい味かもしれない。
マスターに勧められて次に注文したのが、浅利スープ入りトマトジュースで作ったブラッディマリー。
独特のコクがあり、ガスパチョを飲んでいるような気分になる。若マスターお勧めのカクテルだ。
次にいただいたのが、このドイツのハーブ酒「ウンターベルグ」を使った、「これはマズい」という名前のカクテル。
以前ドイツに行った時に、レストランでサービスでついてきて飲んだことはあったのだが、西洋版養命酒のような感じだろうか。ドイツでは胃薬替わりに愛用されている小瓶のお酒だ。これをソーダ割りすると、こんな感じになる。
うーん、これはマズい!(笑
この屋台では、美味しいつまみも充実している。まずは人気のカマンベールチーズのマーマレード焼き。マスターが実際に作り方も教えてくれた。簡単なので家でやってみようと思ったのだが、この雰囲気で食べるから格別に美味いんだろうと思う。
次に、テールスープで煮込んだおでん。秋から冬にかけて食べられる季節のメニューだ。秋口からテールを煮込み始め、春先までスープを継ぎ足しながら色んな具材を煮込んでいく。竹輪のなかにトッポギが入ったおでんが美味しいそうだが、もう売り切れていたため、白菜と大根を注文した。透き通った琥珀色のスープがしっかりしみ込んで、箸でほぐれる柔らかさ。和風の具材を使ったポトフといった感じ。
店内にはこのように所狭しと色んな物が並んでいる。
午前2時半でオーダーストップ、3時に閉店。そして2時間で全てを片付ける(のは今では息子さんの仕事)。午前5時までに屋台を撤収するのが決まりだからだ。お酒や食材は次の営業まで全部家に持ち帰り、屋台は「リアカーの付いた箱」に戻る。契約する曳き屋さんが回収し、その箱は駐車場で夜の帳が降りるのを静かに待つ。
「屋台は原則一代限り、他者への権利譲渡禁止」といった福岡市の営業ルールが規定されたのが2000年。そして市はまさに今月(2012年10月)、「屋台条例」を制定し営業ルールを厳格化する方向を明らかにしている。
ルールを守らないならず者の屋台経営者もいるだろうが、このように福岡・博多の顔として長年頑張っている屋台の灯りは消してはいけないと心から思う。行政だって理解しているはずだ。
このように、マスターはおのぼりさんの写真撮影にも気さくに応じてくれる。というか、ものすごく慣れている(笑。お客さんにはすでにかなり出来上がった状態で来店する人も多いのだが、マスターのあしらい方も粋である。まだ社会人になりたて位の女の子がへべれけに酔っぱらって、周囲の制止も聞かず「まだ飲みたい」と叫び始めた。マスターは一言、「あなたのような可愛い人がお酒で可愛くなくなったらダメよ」と言い、女の子も納得して店を出て行った。
お店には、近郊在住の常連に混じり、近県だったり、東京だったり、私のように海外からだったり、と様々な場所からやってくる。美味しいお酒と、おつまみと、そしてそれをさらに美味しくする独特の雰囲気に惹かれてだろう。これからもずっとこの屋台の灯が続くことを願ってやまない。
「えびちゃん」そして、若マスター、これからもお元気でご活躍ください。
ごちそうさまでした。
博多屋台バー えびちゃん
博多区上川端(冷泉公園前)
090-3735-4939
福岡の地下鉄中洲川端駅近くにある冷泉公園。ちょうどその角っこあたりに数件並ぶ屋台のひとつがこの屋台BARえびちゃんだ。マスターが故郷の鹿児島を離れて福岡に就職し、長年バーで勤務した後、40代にして屋台を立ち上げた。それも隣の屋台を切り盛りするおばさんが、「えびちゃんも出すなら私も出す」と屋台経営を持ちかけ、それで始めたらしい。(マスター談)
店構えは完全に屋台。しかし中に入るとこんな感じ。客がコの字型に12人も座ればかなりギュウギュウ詰めの雰囲気だ。
ちょうど夜10時を回った頃で、平日ながら屋台もほぼ満席状態。マスターの「詰めてー」の一言で詰めてくださったカップルの方と、これをきっかけに去ってくださった3人組のお陰で席を確保できた。
マスターがバイブルのような写真入れにまとめられたメニューを差し出す。最初に目に留まったのが、「シンガポールスリング」。かれこれ5年近く住んでいるシンガポールでは接待するたびにロングバーに行って、あまり美味しいとは言えないこのカクテルを飲み続けてきた訳だが、博多味のシンガポールスリングとはどんな味だろうと思い注文してみた。
「あまいのがいい? それともさっぱりしたの?」
「さっぱりしたので」
出されたシンガポールスリングは、確かにさっぱりした味。シロップなしで作ったそう。ブランデーに漬けこんだワイルドチェリーが添えられていた。
隣に座っているカップルは宮崎から遥々来たとのこと。女性の方は粋な着物姿で。とても美人。
マスターに次のお酒を聞かれると、「じゃあ、秋っぽいカクテルで。この柿を使って!」 とカウンターのバスケットに盛られた柿を指さされた。
「はい」とおっしゃったのは息子さん。創作カクテルはもっぱら彼が作るようだ。 バスケットではなく、冷蔵庫に入った形も崩れるほどに完熟した柿を取り出し、身をスプーンで丁寧にすくって、シェイカーへ。それに搾りたてのオレンジジュースを加え・・・
屋台なのでグラスがそっけない分、中身で勝負である。「うわっ、おいしい! 飲んでみます?」と着物のお姉さまから勧められ、一口飲んでみたら、確かに「うわっ」。甘い柿が酸味のあるオレンジジュースで中和され、さっぱりとした秋味のカクテルに。
お姉さまの連れの方と私は、この屋台でも有名なカクテル「オイシー」を。「オイシーのシーはビタミンCのシーよ」とマスターの言う通り、酸味の効いた味。甘夏など酸っぱい柑橘類に食べ慣れた九州人には嬉しい味かもしれない。
マスターに勧められて次に注文したのが、浅利スープ入りトマトジュースで作ったブラッディマリー。
独特のコクがあり、ガスパチョを飲んでいるような気分になる。若マスターお勧めのカクテルだ。
次にいただいたのが、このドイツのハーブ酒「ウンターベルグ」を使った、「これはマズい」という名前のカクテル。
以前ドイツに行った時に、レストランでサービスでついてきて飲んだことはあったのだが、西洋版養命酒のような感じだろうか。ドイツでは胃薬替わりに愛用されている小瓶のお酒だ。これをソーダ割りすると、こんな感じになる。
うーん、これはマズい!(笑
この屋台では、美味しいつまみも充実している。まずは人気のカマンベールチーズのマーマレード焼き。マスターが実際に作り方も教えてくれた。簡単なので家でやってみようと思ったのだが、この雰囲気で食べるから格別に美味いんだろうと思う。
次に、テールスープで煮込んだおでん。秋から冬にかけて食べられる季節のメニューだ。秋口からテールを煮込み始め、春先までスープを継ぎ足しながら色んな具材を煮込んでいく。竹輪のなかにトッポギが入ったおでんが美味しいそうだが、もう売り切れていたため、白菜と大根を注文した。透き通った琥珀色のスープがしっかりしみ込んで、箸でほぐれる柔らかさ。和風の具材を使ったポトフといった感じ。
店内にはこのように所狭しと色んな物が並んでいる。
「屋台は原則一代限り、他者への権利譲渡禁止」といった福岡市の営業ルールが規定されたのが2000年。そして市はまさに今月(2012年10月)、「屋台条例」を制定し営業ルールを厳格化する方向を明らかにしている。
ルールを守らないならず者の屋台経営者もいるだろうが、このように福岡・博多の顔として長年頑張っている屋台の灯りは消してはいけないと心から思う。行政だって理解しているはずだ。
このように、マスターはおのぼりさんの写真撮影にも気さくに応じてくれる。というか、ものすごく慣れている(笑。お客さんにはすでにかなり出来上がった状態で来店する人も多いのだが、マスターのあしらい方も粋である。まだ社会人になりたて位の女の子がへべれけに酔っぱらって、周囲の制止も聞かず「まだ飲みたい」と叫び始めた。マスターは一言、「あなたのような可愛い人がお酒で可愛くなくなったらダメよ」と言い、女の子も納得して店を出て行った。
お店には、近郊在住の常連に混じり、近県だったり、東京だったり、私のように海外からだったり、と様々な場所からやってくる。美味しいお酒と、おつまみと、そしてそれをさらに美味しくする独特の雰囲気に惹かれてだろう。これからもずっとこの屋台の灯が続くことを願ってやまない。
「えびちゃん」そして、若マスター、これからもお元気でご活躍ください。
ごちそうさまでした。
博多屋台バー えびちゃん
博多区上川端(冷泉公園前)
090-3735-4939
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